直熱三極管パワーアンプ TC-805 試聴記
西日本のお客様からTC-805の試聴記を頂戴いたしました。
心より、御礼申し上げます。
TC-805試聴記(貝原正史様)
アンプ台へのSettingを済ませSPコードLineコード、そして電源コードの接続がもどかしくてたまらないほど、一時も早くAMPのSwitchを入れて音を出したい衝動がAudioの世界ではなんとも云えずスリリングである。
まず初めにオペラを聴く
セビリアの理髪師序曲からスタート。
自作のP&GFaderBox が不調でD/Aコンバータのアナログ出力をTC-805にダイレクト接続。
Volume調節で音を確認し聴くことになる。
ボリュームツマミに全く目盛やポイントさえないので神経質に音を探るにはちょっと難しい。
ダイナミックレンジの大きさ等を確認したら音質のチェック左右のバランス奥行きなど耳を澄ませている内に序曲が終わってしまった。
真空管アンプにしては比較的現代調の音作りかなーという印象をうける。
しかしトリウムタングステンの光る805の威容は全くすばらしい。
次にカヴァレリアルスティカーナ全曲を聴く
常に私が聴くVolumeつまみの位置が大体判ったので固定しDAT DECKをStart。
静かな前奏の中にトリッドゥーの声が小さく響いてくる雰囲気感が断然すばらしく、
明滅する楽器の立体感
消え入る楽音の漂う雰囲気
爆発するトゥッティの凄さ
クライマックスのソプラノの叫び
もう眼前がステージそのものだった。
ただ一つアンプのエージングが完全ではないか、録音上の歪のせいか、合唱部分の再生がイマイチザラツキ気味でクリアーさに欠くことが気になった。
ハイドンの100番《軍隊》
大好きなジェフリーテイトの指揮による軍隊、オペラと違ってさすがに録音はまとまりが良く、鳥肌が立つほどの楽器の美しさの妙が、これでもか これでもかと云わんばかりに展開し、ゾクゾクしながらの25分間だった。
まるでサスペンスホラーの映画のクライマックスを見ている様なスリルに満ちたしかも堂々として立派な音の展開はもう文句のつけようの無い体験だった。
シューベルト《ザ・グレート》
音楽の世界に入り込んだ若いときから、いろいろな演奏を一体どの位聴いて来ただろう 耳にタコが出来る程とはこのことか。
しかし不思議なことに、その都度新たな発見に満ち溢れるのは名曲の名曲たるゆえんだろう。
比較的新しい録音のロリンマゼール指揮のものは この曲が田園的情緒を大切にし乍もティンパニーを強打し、ヴァイオリンを高揚させながら若々しくダイナミックな演奏を展開する。
この60分に及ぶ雄大なシンフォニーを805は息もつかせず一気加勢に聞かせてくれた。
楽器の一つ一つが美しく金管の迫力は怒涛のごとく激しい音圧となって迫ってきた。
続いてハイドンの《時計》
第2楽章が時計のシンコペーション風のリズムであることからこの名がつくが、その第2楽章中途で突如曲が停止したような無音の場面に達したとき、その沈黙の美しさに唖然とする。
ハイエンドオーディオの究極の目標はこの沈黙のキャパシティのためであり、そこから生まれてくる音の純粋さと話しかけてくる深さにそのすべてがあると思う。
このアンプが入ってくる以前のあるアルケミストのパラビチーニのAPD-24A,25Aというアンプも相当にレベルの高い立派な音を聞かせてくれたが、TC-805も真空管アンプの領域で決して最新のトランジシタアンプに引けを取らない、しかも決して懐古趣味のものではないことを改めて、実感させられた。
オペラやシンフォニーを愛する私にとって50Wそこそこのトランジシタアンプはちょっとパワー不足でレベルメータの針が振り切れていたのに、若干の不満と不安を感じ同じパワーでもずっと余裕のある真空管アンプに変えようと思ったところWAVACのアンプを誌上で出会えたのはまさに幸運だったと今思っている。
TC-805を精魂込めて製作してくださったTACResearchの皆様、そして吉澤さんに心から御礼の意を表したいと思います。